東京都と東京都中小企業振興公社は、「中東情勢による原材料価格高騰に伴う経営基盤安定化緊急対策事業」の第2回募集を実施しています。
助成限度額は最大2,000万円、助成率は5分の4以内。第2回の申請期限は2026年9月30日16時です。
制度名だけを見ると、「値上がりした原材料費を補填してもらえる制度」と受け取るかもしれません。
しかし、ここは注意が必要です。
通常販売する製品の材料を仕入れるための費用を補填する制度ではありません。
むしろ中小製造業が注目したいのは、検査装置や製造設備、システムなどを活用して、歩留まり向上、不良率低減、廃棄物削減などにつなげる取組が支援対象になり得ることです。
原材料価格そのものを企業がコントロールすることは困難です。
だからこそ、「高くなった材料をどう安く買うか」だけでなく、**「高くなった材料をいかに無駄にしないか」**という視点が重要になります。
最大2,000万円・助成率4/5以内
「中東情勢による原材料価格高騰に伴う経営基盤安定化緊急対策事業」は、中東情勢を背景とした原材料価格の高騰によって事業活動への影響を受けている都内中小企業等を支援する制度です。
第2回募集の主な条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成限度額 | 最大2,000万円 |
| 助成率 | 4/5以内 |
| 第2回申請期間 | 2026年9月1日14時~9月30日16時 |
| 申請方法 | Jグランツ |
| 必要ID | gBizIDプライム |
| 助成対象期間 | 交付決定日から最大1年間 |
| 交付決定予定 | 原則2026年12月25日 |
申請額が100万円以下の場合は面接審査を行わず、11月30日の交付決定が予定されています。
また、第3回募集も2026年11月2日~11月30日に予定されています。
ただし、第3回のスケジュールは現時点で予定されているものであり、今後変更される可能性があります。
「原材料が値上がりした」だけでは対象にならない
この制度で特に注意したいのが、申請要件です。
原材料価格が上昇したという理由だけで、すべての東京都内の中小企業が対象になるわけではありません。
申請受付開始日時点で、次のいずれかに該当する必要があります。
- 直近決算期の営業利益率が前期より減少している
- 次期決算期の営業利益率が直近決算期より減少する見込みである
- 直近決算期で営業損失を計上している
このほかにも、東京都内で実質的に事業を行っていることなど、募集要項に定められた要件があります。
製造業の場合、中小企業者の企業規模は原則として、
資本金3億円以下、または常時使用する従業員300人以下
です。
そのため、自社が対象になるかを判断する際は、まず「原材料価格が上がったか」だけを見るのではなく、利益率への影響まで確認する必要があります。
「材料費補填」ではない
制度名に「原材料価格高騰」と入っていますが、ここを誤解すると制度の使い方を間違えます。
募集要項では「原材料・副資材費」が対象経費に含まれています。
対象例として、
- 鋼材
- 機械部品
- 電機部品
- 化学薬品
- 試験用部品
などが挙げられています。
一方、通常販売する製品や商品の材料費は対象外です。
つまり、
「鋼材が値上がりしたので、普段使っている鋼材の仕入代金を助成してもらう」
という使い方をする制度ではありません。
単に高騰した原材料Aを別の原材料Bへ置き換えるだけの取組も対象外とされています。
この制度を見るうえで重要なのは、原材料の購入費を穴埋めするのではなく、原材料高騰に対応できる経営・生産体制へ変えるための投資を支援する制度と捉えることです。
製造業が注目したい「歩留まり改善」
中小製造業にとって特に注目したいのが、歩留まり改善です。
東京都中小企業振興公社は、本制度の具体的な取組例として、不良品を早期に発見し、原材料の歩留まりを向上させる検査装置の導入を挙げています。
募集要項でも、既存設備・機械・システムの改良について、
- 原材料の歩留まり向上
- 不良率の低減
- 廃棄物削減
- 生産性向上・省力化
- 省エネルギー化
- 生産管理システムとのデータ連携
- 自動制御化
などが例示されています。
これは、原材料価格が上昇している製造業にとって重要な考え方です。
例えば、100kgの材料を投入して90kg相当が良品となる工程で、歩留まりを90%から95%へ改善できれば、同じ材料投入量から得られる良品を増やすことができます。
もちろん、実際の改善効果は製品や工程によって異なります。
重要なのは、
原材料単価そのものを下げることだけが、原材料高騰対策ではない
ということです。
高くなった原材料をできるだけ無駄にしない製造工程へ変えることも、利益率を守るための重要な経営改善になります。
検査装置・製造機械・金型・治具なども対象候補
対象経費には「機械装置・工具器具費」があります。
募集要項では、
- 製造機械
- 計測機器
- 測定機器
- 検査機器
- 金型
- 治具
などが対象例として示されています。
また、
- 機器・システム改良費
- 設備等導入費
- システム等導入費
- 委託・外注費
- 専門家指導費
- 販路開拓経費
なども対象経費に含まれています。
ただし、「検査装置なら対象」「製造機械なら対象」という意味ではありません。
導入する設備やシステムが、原材料価格高騰への対応や経営基盤強化にどうつながるのかが重要です。
単なる老朽設備の維持・更新は対象外です。
例えば、
「機械が古くなったから買い替える」
だけではなく、
「新しい設備によって不良率を下げ、材料廃棄を減らす」
「検査工程を改善して不良品を早期発見し、後工程で発生する材料・加工ロスを削減する」
といった、経営課題とのつながりを考える必要があります。
東京本社+近県工場でも対象になる可能性
製造業では、本社が東京都内でも工場は埼玉県や神奈川県などにあるケースがあります。
本制度では一定の要件を満たす場合、東京都内だけでなく、
- 神奈川県
- 埼玉県
- 千葉県
- 群馬県
- 栃木県
- 茨城県
- 山梨県
に所在する自社の本社・事業所・工場等も取組実施場所となる可能性があります。
例えば、
東京都内に本社+埼玉県に自社工場
といった企業も確認する価値があります。
ただし、都外の実施場所を利用する場合は、東京都内に登記簿上の本店があることなどの要件があります。
個別の対象可否については、必ず最新の募集要項を確認してください。
製品そのものを改良したい場合は別制度も確認
本制度では、既存設備・機械・システムの改良などが対象となる一方、自社で販売する製品そのものの改良を目的とする取組は対象外です。
ここは東京都の他の助成制度との使い分けが重要です。
製造工程を改善して、
- 歩留まりを上げたい
- 不良率を下げたい
- 材料使用量を減らしたい
- 生産性を向上させたい
のであれば、本制度を確認する価値があります。
一方、
既存製品そのものの性能や機能を改良したい
という場合には、東京都中小企業振興公社の「製品改良/規格適合・認証取得支援事業」が候補になります。
関連記事:東京都「製品改良・認証取得」助成金が受付開始 最大500万円、製造業が確認したい5つのポイント
制度名だけで判断するのではなく、**「何に投資するのか」「何を改善するのか」**によって使い分けることが重要です。
原材料高騰は「内部改善」だけでは吸収できないこともある
歩留まり改善や省力化は重要ですが、原材料価格の上昇をすべて社内努力だけで吸収できるとは限りません。
例えば、
- 原材料費
- エネルギー費
- 物流費
- 人件費
が同時に上昇すれば、工程改善だけでは利益率を維持できない企業もあります。
そこで重要になるのが、価格転嫁です。
東京都中小企業振興公社は、本制度とは別に「中東情勢による原材料価格高騰に伴う価格転嫁等緊急支援事業」も実施しています。
専門家による支援を通じて、
- 原価管理体制の構築
- 適正価格の設定
- 価格転嫁
などに取り組むものです。
経営者としては、
原材料コストを把握する
↓
歩留まり・不良率・在庫ロスを改善する
↓
それでも吸収できないコストを把握する
↓
必要な価格転嫁を検討する
という順番で考えると整理しやすくなります。
人件費上昇も同時に確認する
2026年10月1日から、東京都最低賃金は時間額1,280円へ引き上げられます。
製造業にとって、
原材料費の上昇
だけでなく、
人件費の上昇
も同時に進む可能性があります。
原材料価格だけを見て利益計画を立てるのではなく、人件費、エネルギー費、物流費などを含めたコスト構造全体を確認する必要があります。
関連記事:東京都最低賃金が1,280円へ 中小企業が9月中に確認したい5つの対応
原材料費と人件費の両方が上昇する局面では、生産性向上・原価改善・価格転嫁を一体で考えることが重要です。
交付決定まで比較的短いスケジュール
本制度でもう一つ注目したいのが、申請から交付決定までのスケジュールです。
第2回は9月30日に申請を締め切り、交付決定は原則12月25日の予定です。
さらに、助成金交付申請額が100万円以下の場合は面接審査を行わず、11月30日の交付決定が予定されています。
東京都中小企業振興公社の設備投資系助成事業には、申請から事業開始まで数か月を要するものもあります。その中で本制度は、比較的短い期間で交付決定まで進むスケジュールとなっています。
原材料高騰への対応は、半年後・1年後ではなく、現在進行形の経営課題です。
そのため、歩留まりを早急に改善したい企業や、比較的早期の設備投資を検討している企業にとって、交付決定までの期間が比較的短いことは一つの特徴といえます。
ただし、交付決定日はあくまで予定であり、採択や交付決定時期が保証されるものではありません。
そして、設備投資を急ぐ企業ほど次の点に注意が必要です。
交付決定前に発注しない
本制度の助成対象期間は、交付決定日から最大1年間です。
その期間内に契約・実施・支払まで完了する必要があります。
特に重要なのが、
交付決定前に発注・契約した経費は助成対象にならない
という点です。
「助成金を使いたいから、先に設備を注文しておこう」と進めてしまうと、対象外になる可能性があります。
比較的早い交付決定が予定されているからこそ、申請 → 審査 → 交付決定 → 発注・契約という順序を守ることが重要です。
設備投資を急いでいる企業ほど、スケジュールを確認してから進めてください。
最大2,000万円でも「後払い」
もう一つ注意したいのが資金繰りです。
本制度の助成金は**精算払い(後払い)**です。
設備購入時に東京都から助成金が先払いされるわけではありません。
企業がいったん対象経費を支払い、事業終了後に実績報告・完了検査等を経て助成額が確定します。
例えば大規模な設備投資を行う場合には、助成率だけでなく、
「助成金が入金されるまで、自社で資金を用意できるか」
も確認する必要があります。
最大2,000万円という金額だけを見て投資判断をしないことが重要です。
経営者は何を確認すべきか
NOW|まず確認する
まず、
- 自社の営業利益率が要件に該当するか
- 原材料価格上昇が利益にどの程度影響しているか
- 不良・廃棄・材料ロスがどこで発生しているか
- 改善したい工程はどこか
- 設備投資をいつ実施する必要があるか
を確認します。
NEXT|改善策を数字にする
設備を選ぶ前に、
- 現在の歩留まり
- 不良率
- 材料廃棄額
- 作業時間
- 原材料使用量
などを把握します。
そのうえで、
「設備を入れると何がどれだけ改善するのか」
を整理します。
これは助成制度のためだけではなく、設備投資そのものの採算性を判断するためにも重要です。
WATCH|第3回と制度更新
第2回の申請期限は2026年9月30日16時です。
第3回募集は11月2日~11月30日に予定されています。
ただし、制度内容やスケジュールは変更される可能性があります。
経営NEXT TOKYOでは、東京都・東京都中小企業振興公社から重要な変更が公表された場合、本記事を随時更新します。
経営NEXT TOKYO編集部の視点
原材料価格が上がったとき、経営者が最初に考えるのは「仕入価格をどう下げるか」かもしれません。
しかし、仕入先との交渉だけでは限界があります。
特に製造業では、
「材料をいくらで買うか」だけでなく、「買った材料をどれだけ売上に変えられているか」
を見る必要があります。
不良品、端材、廃棄、過剰投入、検査遅れによる後工程ロス。
こうした損失を減らすことができれば、原材料単価そのものを下げられなくても、製品1個当たりの実質的な材料コストを改善できる可能性があります。
今回の東京都の支援制度で中小製造業が注目すべきなのは、最大2,000万円という金額だけではありません。
原材料高騰をきっかけに、自社の「材料の使い方」そのものを見直せるか。
そして、社内改善だけでは吸収できないコストについては、原価を把握したうえで価格転嫁を検討する。
そこまでを一つの経営改善として考えることが、本制度を活用するうえで重要です。
公式情報・出典
- 東京都中小企業振興公社「中東情勢による原材料価格高騰に伴う経営基盤安定化緊急対策事業」
- 東京都中小企業振興公社「令和8年度 中東情勢による原材料価格高騰に伴う経営基盤安定化緊急対策事業 第2回募集要項」
- 東京都中小企業振興公社「中東情勢による原材料価格高騰に伴う価格転嫁等緊急支援事業」
※制度の利用を検討する場合は、必ず東京都中小企業振興公社が公開する最新の募集要項・公式情報をご確認ください。
Article ID:KNT-20260907-003
情報確認日:2026年9月9日
初回公開日:2026年9月9日
最終更新日:2026年9月9日
