人手不足への対応というと、「採用を増やす」「AIを導入する」「ロボットを入れる」といった対策を思い浮かべるかもしれません。
しかし、省力化を考えるとき、最初にツールや設備を選ぶ必要はありません。
まず確認したいのは、
「今、人がやっているその仕事は、本当にそのまま続ける必要があるのか」
ということです。
不要な帳票をなくす。承認を減らす。同じ情報を何度も入力しない。紙やExcelに分散した情報をシステムへまとめる。
そのうえで必要なら、RPA、生成AI、IoT、設備・ロボットなどを検討します。
省力化とは、単に人が行っている作業を機械へ置き換えることではありません。
この記事では、人手不足や人件費上昇に直面する中小企業が、自社のどの仕事を見直し、業務改善・システム・AI・設備をどう使い分ければよいのかを整理します。
この記事で分かること
- 中小企業が省力化を考えるとき、何から始めればよいか
- 「業務改善」「システム化」「AI」「設備」の違い
- 受発注、在庫、生産、請求、会計などをシステム化する考え方
- システム連携やRPAで転記作業を減らす考え方
- 中小製造業で省力化できる業務の具体例
- 自社でどの業務から省力化すべきか判断する方法
人手不足への対応は「採用」だけではない
中小企業にとって、人手不足は重要な経営課題です。
一方、人が足りないからといって、必要な人数をいつでも採用できるとは限りません。
さらに東京都では、2026年10月1日から最低賃金が時間額1,280円へ引き上げられます。
人材確保や人件費上昇への対応を考えるとき、採用と同時に検討したいのが、
「今いる人が、本当に人にしかできない仕事へ時間を使えているか」
という視点です。
例えば、
- Excelから別のシステムへ数字を転記する
- 紙の注文書を見ながら受注情報を入力する
- 在庫数を確認するため倉庫へ見に行く
- 生産状況を確認するため担当者へ電話する
- 図面を探す
- 同じ内容を複数の帳票へ記入する
といった仕事に毎日少しずつ時間を使っていれば、会社全体では大きな業務負担になります。
人手不足への対応は、「人を増やす」だけではありません。
人がやらなくてもよい仕事を減らすことも、人手不足対策の一つです。
→【関連記事】東京都最低賃金が1,280円へ|2026年10月から・中小企業の5つの対応
省力化は「何を導入するか」から考えない
「DXを進めよう」と考えたとき、
「生成AIを導入しよう」
「RPAを入れよう」
「新しいシステムを買おう」
と、ツールから検討を始めてしまうことがあります。
しかし、解決したい業務課題が曖昧なままでは、システムを導入しても従来の非効率な業務がそのまま残る可能性があります。
例えば、不要な社内帳票を作るために毎日30分かかっているとします。
この場合、
AIを使って30分を10分にする
ことも改善ですが、
その帳票自体を廃止できれば0分
です。
まず考えるべきなのは、
「この作業を速くするにはどうするか」ではなく、「この作業は本当に必要か」
です。
省力化には複数のアプローチがある
省力化は、設備投資だけを意味するものではありません。
業務によって、取るべき手段は異なります。
やめる
最初に検討したいのが、業務そのものをなくせないかということです。
例えば、
- 誰も活用していない帳票
- 目的が重複している会議
- 必要以上に多い承認
- 同じ内容の二重管理
- 慣習として続いている報告
などです。
不要な仕事をなくすことができれば、システムもAIも必要ありません。
新たな設備やシステム投資を伴わずに実施できる場合もあるため、最初に確認したい省力化です。
減らす・標準化する
業務自体をなくせない場合は、作業量を減らせないかを考えます。
例えば、
- 入力項目を減らす
- 承認者を減らす
- 帳票を統一する
- 書類のフォーマットを統一する
- 作業手順を標準化する
- 特定の社員に集中している業務を整理する
などです。
人によって仕事の進め方が大きく異なる場合は、先に手順を整理・標準化した方が、システム化しやすいケースもあります。
システム化する
次に検討できるのが、紙・Excel・メール・電話などに分散している業務を、適切な業務システムへ移すことです。
例えば、
| 業務 | 検討できる仕組み |
|---|---|
| 受発注 | 受発注管理 |
| 売上・請求 | 販売管理・請求システム |
| 在庫 | 在庫管理 |
| 製造 | 生産管理 |
| 工程 | 工程管理 |
| 顧客情報 | CRM |
| 営業活動 | SFA |
| 勤怠 | 勤怠管理 |
| 経費 | 経費精算 |
| 社内承認 | ワークフロー |
| 契約 | 電子契約 |
| 社内資料 | 文書管理・情報共有 |
重要なのは、**「どのシステムが人気か」ではなく、「自社のどの仕事を仕組みに置き換える必要があるか」**です。
すでに一般的な業務システムで解決できる仕事について、最初から独自システムや高度なAIを開発する必要がない場合もあります。
つなぐ・自動化する
システムを導入していても、業務が効率化されているとは限りません。
例えば、
受注情報をExcelへ入力
↓
販売管理システムへ転記
↓
在庫システムへ入力
↓
請求システムへ再入力
↓
会計システムへ入力
という状態では、それぞれのシステムが存在していても、人による転記作業が残ります。
ここで考えたいのが、
「入力を速くする」より、「同じ情報を二度入力しない」
という発想です。
例えば、
受注
↓
在庫
↓
生産
↓
出荷
↓
請求
↓
会計
という情報の流れを整理し、同じデータを後工程でも利用できないか検討します。
システム同士をAPI等で連携したり、データを取り込んだりする方法があります。
既存システムをすぐに連携できない場合などには、RPAを使って定型的なPC操作や転記を自動化する方法もあります。
ただし、すべての業務でシステム連携やRPAが適しているわけではありません。
業務量、費用、例外処理、既存システムとの相性などを確認したうえで判断する必要があります。
AIで補助する
情報整理、文章作成、検索、要約など、ルールだけでは処理しにくい業務では生成AI等を活用できる場合があります。
例えば、
- 会議内容の整理
- メール・文書の下書き
- 資料の要約
- アイデア整理
- 社内FAQ
- マニュアル活用
などです。
ただし、生成AIは省力化手段の一つにすぎません。
受注情報を何度も入力している会社であれば、生成AIを導入するより先に、受発注システムやデータ連携を見直した方が適切なケースもあります。
生成AIをどの業務から試すかについては、別記事で詳しく整理しています。
→【関連記事】中小企業の生成AI活用は何から始める?まず見直したい「時間のかかる仕事」
設備・ロボットで自動化する
製造・物流など物理的な作業が多い業種では、設備やロボットによる省力化も選択肢になります。
例えば、
- 搬送
- 加工
- 検査
- 梱包
- 入出庫
などです。
ここでも、
「ロボットを導入できる仕事を探す」
のではなく、
「どの工程に人手がかかっているか」
から考えることが重要です。
投資額だけでなく、生産量、稼働率、保守、教育、既存設備との連携などを含めて判断する必要があります。
「入力を速くする」より「二度入力しない」
中小企業の業務を見直す際、特に確認したいのが転記です。
例えば顧客から注文を受けた後、
- 注文内容をExcelへ入力
- 販売管理へ入力
- 製造部門が別のExcelへ入力
- 出荷後に請求システムへ入力
- 経理担当者が会計へ入力
している場合、一つの取引情報を複数回、人が入力しています。
この場合、
「入力担当者がもっと速く入力する」
「AIに入力を手伝わせる」
だけでなく、
最初に登録した情報を後工程でも利用できないか
を検討します。
中小企業庁も、受発注のデジタル化について、電子化した受発注データを他システムのデータと連携することで、さらなる生産性向上が期待できるとしています。
省力化では、目の前の作業時間だけでなく、情報が会社の中をどう流れているかを見ることが重要です。
製造業では「現場作業」だけが省力化ではない
製造業の省力化というと、ロボットや自動加工設備を思い浮かべるかもしれません。
しかし、中小製造業では、現場作業以外にも人手がかかっている仕事があります。
例えば、
受注
↓
生産計画
↓
材料・在庫確認
↓
工程管理
↓
製造実績
↓
検査・品質記録
↓
出荷
↓
請求
という一連の流れです。
この中で、
- 受注内容を製造部門へ手入力している
- 生産状況を電話で確認している
- 図面を紙のファイルから探している
- 在庫数を現場まで見に行って確認している
- 作業実績を紙へ書き、後でExcelへ入力している
- 検査結果を複数の帳票へ転記している
といった作業があれば、省力化できる余地があります。
生産管理・工程管理
生産計画、受注、工程進捗、作業実績、在庫などをまとめて管理できれば、
「担当者に聞かないと状況が分からない」
という状態を減らせる可能性があります。
図面・文書管理
必要な図面や作業手順書を探す時間も、積み重なれば大きな負担です。
図面・文書を適切に管理し、必要な人が必要な情報へアクセスできる状態をつくることも省力化です。
在庫管理
バーコードやRFID等を使い、材料・仕掛品・製品の入出庫や所在を管理する方法もあります。
ただし、導入する仕組みは品目数、物流量、現場環境などによって異なります。
IoT・設備稼働データ
設備から、
- 稼働
- 停止
- サイクルタイム
- 温度
- 振動
- 電流
などの情報を取得し、設備状況の把握に活用する方法もあります。
例えば、「設備が止まっているか確認するため現場へ行く」という業務を、データで確認できる状態に変えられる可能性があります。
検査・物理作業の自動化
検査、搬送、加工、梱包などについては、画像処理、専用設備、ロボット等による自動化を検討できる場合があります。
ただし、品質判定や安全性など重要な判断を含む場合は、単に「人をなくす」という発想ではなく、必要な確認・管理体制を含めて設計することが重要です。
業種によって最適なDXは違う
すべての会社が同じシステムやAIを導入する必要はありません。
業種によって、業務負担が発生する場所が違うからです。
例えば、
物流
- 配車管理
- 倉庫管理
- 在庫管理
小売
- POS
- 在庫管理
- 顧客管理
サービス業
- 予約管理
- 顧客管理
- シフト管理
建設・設計
- BIM
- 施工管理
- 図面・工程情報共有
などがあります。
BIMも「業種特化型DX」の一例
建設・設計分野では、BIM(Building Information Modeling)の活用が進められています。
BIMは単なる3次元の図面ではなく、建築物の形状に加えて、部材、材料、仕様、性能などの情報を組み合わせて扱う仕組みです。
国土交通省は、設計・施工・維持管理など建築物のライフサイクルを通じたBIM活用を推進しています。
2026年4月からはBIM図面審査も開始されています。
こうした業種特化型の仕組みは、「DX=生成AI」ではないことを示す一例です。
一方で、BIM導入にはソフトウェアだけでなく、教育、既存業務との連携、取引先とのデータ共有などが必要になる場合があります。
そのため、「導入すれば必ず省力化できる」と考えるのではなく、自社の業務や取引環境を踏まえた投資判断が必要です。
自社では何から省力化すべきか
省力化候補が多いと、「結局どこから始めればよいのか」が分からなくなります。
その場合は、まず日常業務を書き出します。
例えば、
| 業務 | 回数 | 1回の時間 | 担当者 |
|---|---|---|---|
| 受注入力 | 毎日 | ○分 | 営業事務 |
| 在庫確認 | 毎日 | ○分 | 製造 |
| 請求入力 | 月○回 | ○分 | 経理 |
| 会議議事録 | 週1回 | ○分 | 総務 |
といった形です。
厳密な業務分析から始める必要はありません。
まず、
頻度が高い
×
時間がかかる
×
人がやらなくてもよい部分が多い
仕事を探します。
さらに、
- 同じ情報を何度も入力していないか
- 情報を探す時間が長くないか
- 担当者しか分からない仕事になっていないか
- 紙とExcelとシステムが混在していないか
- 承認や確認が必要以上に多くないか
を確認します。
ここまで整理すると、
廃止する仕事
標準化する仕事
システム化する仕事
連携・自動化する仕事
AIで補助する仕事
設備で自動化する仕事
が見えやすくなります。
投資が必要なら「その後」に支援制度を確認する
システムや設備の導入には、費用がかかる場合があります。
国や東京都では、中小企業のデジタル化や省力化、生産性向上を支援する制度が実施されることがあります。
ただし、補助金があることを理由に設備やシステムを選ぶと、
「補助金を使うこと」が目的
になってしまう可能性があります。
順番は、
経営課題を確認する
↓
省力化する業務を決める
↓
適切な手段を選ぶ
↓
必要な投資を決める
↓
利用できる支援制度があるか確認する
です。
支援制度は年度や公募時期によって変わります。
経営NEXT TOKYOでは、公開時点で募集が終了している補助金・助成金を、現在利用できる制度として紹介しません。
制度を利用する場合は、必ず最新の公式情報を確認してください。
経営者は何をすべきか
NOW|「人が時間を使っている仕事」を見える化する
まず、
- 毎日繰り返している
- 転記が多い
- 探す時間が長い
- 特定の社員に集中している
- 紙・Excel・メールが混在している
業務を洗い出します。
特に、同じ情報を複数回入力している業務を探します。
NEXT|「やめる」から順に検討する
洗い出した仕事について、
そもそも必要か
↓
回数・項目を減らせないか
↓
標準化できないか
↓
システムへ移せないか
↓
システム同士をつなげないか
↓
AIで補助できないか
↓
設備・ロボットで自動化できないか
と考えます。
必ずこの順番で導入する必要はありません。
重要なのは、ツールありきで判断しないことです。
WATCH|導入後も「本当に減ったか」を確認する
システムや設備を導入しただけでは、省力化できたとは限りません。
導入後に、
- 作業時間は減ったか
- 転記回数は減ったか
- ミスは減ったか
- 担当者の負担は減ったか
- 新しい二重管理が生まれていないか
を確認します。
システムを導入した結果、
「システムにも入力し、念のためExcelにも入力する」
という状態になれば、むしろ作業が増えることもあります。
導入そのものではなく、実際に人が使う時間が減ったかを見ることが重要です。
経営NEXT TOKYO編集部の視点
省力化という言葉から、AI、ロボット、新しい設備を想像する経営者は少なくありません。
しかし、最も効果的な省力化が「何も買わないこと」である場合もあります。
不要な帳票をなくす。
承認を一つ減らす。
同じ情報を二度入力しない。
必要な情報を探さなくてもよい状態にする。
そのうえで、システム、RPA、AI、IoT、設備などを必要な場所へ使います。
重要なのは、
「何を導入するか」ではなく、「人の時間をどの仕事から取り戻すか」
です。
特に中小企業では、人も投資資金も限られています。
だからこそ、すべてを一度にDXする必要はありません。
まず一つ、時間がかかっている仕事を選ぶ。
その仕事を、
やめられないか。
減らせないか。
仕組みに変えられないか。
そこから省力化を始めることができます。
公式情報・出典
※DX、省力化に関する制度・技術・支援策等は変更される場合があります。導入や制度利用を検討する際は、各機関の最新の公式情報をご確認ください。
情報確認日:2026年9月9日
初回公開日:2026年9月9日
最終更新日:2026年9月9日

