人手不足はさらに深刻化へ 2026年版中小企業白書から考える「採用だけに頼らない経営」

経営改善

「求人を出しても、なかなか人が集まらない」

人手不足に直面したとき、まず採用を強化しようと考える企業は少なくありません。

もちろん、事業を継続・成長させるために必要な人材を採用することは重要です。

一方で、今後も労働力の確保が難しくなることを前提にすると、「人が足りないから採用する」だけではなく、限られた人員で事業をどう続け、成長させるかという視点も必要になります。

2026年版中小企業白書でも、生産年齢人口の減少などを背景に、中小企業の人手不足は今後さらに深刻になるおそれがあると指摘されています。

人手不足は、もはや採用部門だけの問題ではありません。

仕事の進め方、省力化、DX、設備投資、技能承継、生産性、利益、賃上げまで含めた経営そのものの課題として考える必要があります。

※本記事は2026年9月12日時点で確認できる公的機関の情報をもとに作成しています。


中小企業の人手不足は、さらに深刻になるおそれ

中小企業庁が公表した「2026年版中小企業白書」では、今後の労働供給制約について重要な指摘がされています。

生産年齢人口の減少などを背景に、中小企業で働く人の数が減少していくことが見込まれており、白書では人手不足がさらに深刻になるおそれがあるとしています。

つまり、人手不足を一時的な採用難として捉えるのではなく、

「今後も人材確保が難しい経営環境が続く可能性がある」

という前提で経営を考える必要があります。

だからこそ、人手不足への対応も、

人が足りない
↓
求人を増やす

だけでは十分ではありません。

採用に取り組みながら、同時に「そもそも今の仕事のやり方を続ける必要があるのか」を考えることが重要になります。


東京の中小製造業では、すでに経営への影響が出ている

人手不足は、単に「忙しくなる」という問題ではありません。

東京都が都内中小製造業を対象に実施した「令和6年度 東京の中小企業の現状―製造業編―」では、人手不足による影響として、次の回答が挙げられています。

  • 需要増への対応が困難:49.9%
  • 技術やノウハウの承継が困難:32.7%
  • 賃金引上げに伴う人件費の増加:26.5%

さらに、電機・電子では「技術やノウハウの承継が困難」と回答した企業が43.6%となっています。

ここから見えてくるのは、人手不足が「採用できない」という問題だけではないということです。

例えば、受注の機会があっても生産を担う人員が不足していれば、需要を取り込めません。

また、ベテラン社員が持つ加工技術や判断のノウハウが特定の人に集中していれば、その社員の退職によって技術そのものが失われる可能性があります。

中小製造業にとって人手不足は、売上、生産能力、技能承継、賃金、そして将来の競争力に関わる経営課題になっています。


なぜ「採用だけ」では解決しにくいのか

採用が不要ということではありません。

事業を成長させるために必要な技術者や営業人材、次世代を担う若手社員など、必要な人材については採用を進める必要があります。

問題は、

「人手不足=採用」

という一つの選択肢だけで考えてしまうことです。

労働供給そのものが制約されるなかでは、企業間の採用競争が続く可能性があります。

そこで経営者が考えたいのが、

「今の売上や生産量を維持するために、本当に現在と同じ人数・同じ仕事のやり方が必要なのか」

という視点です。

例えば10人で行っている仕事について、欠員が出るたびに10人へ戻すことだけを考えるのではなく、

  • やめられる仕事はないか
  • 重複している作業はないか
  • 手作業を減らせないか
  • 標準化できないか
  • システム化できないか
  • 設備で代替できないか

を一度整理してみる。

人材を採用することと、必要な労働投入量そのものを見直すことを同時に進める必要があります。


人を探す前に、まず「仕事」を見る

人手不足を感じたとき、最初に確認したいのは求人媒体ではなく、現在行っている仕事です。

例えば、次の順番で考えてみます。

その仕事は本当に必要か
↓
やめることはできないか
↓
回数や手順を減らせないか
↓
誰でもできるように標準化できないか
↓
システム化できないか
↓
設備や機械で代替できないか
↓
AIを活用できる部分はないか
↓
それでも人が必要なら採用する

この順番で考えるだけでも、「人が足りない」という問題の見え方は変わります。

例えば製造現場で人が足りない場合でも、本当に必要なのが「作業員1人の採用」とは限りません。

段取り時間が長いことが原因かもしれません。

検査工程に時間がかかっているのかもしれません。

特定の社員しか設備を操作できないことが原因かもしれません。

あるいは、製造現場ではなく受発注や生産管理などの事務作業に多くの時間を取られている可能性もあります。

重要なのは、「人が足りない場所」ではなく、「なぜ人が足りなくなっているのか」を見ることです。

省力化を検討するときも、いきなりAIやシステム、設備を導入するのではなく、先に仕事そのものを整理する必要があります。

関連記事:
「中小企業の省力化は何から始める? AI・システム・設備導入の前に見直したい仕事」


省力化の目的は「人を減らすこと」ではない

省力化という言葉から、「人員を減らすこと」をイメージするかもしれません。

しかし、人手不足の中小企業にとって重要なのは、単純な人員削減ではありません。

限られた人材を、より価値の高い仕事へ振り向けることです。

例えば、

  • 経営判断
  • 顧客とのコミュニケーション
  • 営業
  • 技術開発
  • 製品開発
  • 現場改善
  • 品質改善
  • 技能承継

など、人が担うことで価値が生まれる仕事があります。

一方で、入力、転記、集計、定型的な確認作業などは、システムやAIによって負担を減らせる場合があります。

2026年版中小企業白書でも、AI活用やデジタル化の促進による「労働投入量の最適化」の重要性が示されています。

省力化やDXを考えるときは、

「何人減らせるか」ではなく、「生まれた時間を何に使うか」

まで考えることが重要です。

関連記事:
「中小企業の生成AI活用は何から始める? まず見直したい『時間のかかる仕事』」


製造業では「技能承継」も同時に考える

中小製造業では、人手不足と同時に考えたいのが技能承継です。

例えば、

「この加工条件は○○さんしか分からない」

「設備の異常音を聞いただけでベテラン社員は原因が分かる」

「図面には書かれていない調整方法がある」

といった状態です。

こうした技能やノウハウを持つ社員が退職してから、同じ人材を採用しようとしても簡単ではありません。

そのため、技能承継についても、

  • 作業手順を標準化する
  • マニュアルを作成する
  • 作業を動画で残す
  • 判断基準を記録する
  • 設備条件や加工条件をデータとして蓄積する

など、「人から人へ教える」以外の仕組みを作っておくことが重要です。

もちろん、熟練者の技能すべてをマニュアルやAIに置き換えられるわけではありません。

だからこそ、

人が教えるべきことと、仕組みとして残せることを分ける

という考え方が必要になります。

東京都中小企業振興公社では、都内中小企業者(製造業等)を対象とした「ものづくり中小企業技能人材定着支援」を実施しています。

若手社員、ベテラン社員、上長のコミュニケーションや若手社員の定着などについて、専門家の支援を受けることができます。


省力化・DX・設備投資をどう使うか

仕事を見直した結果、設備やシステムへの投資が必要になる場合もあります。

製造業であれば、

  • 自動化・省力化設備
  • 搬送設備
  • 検査設備
  • ロボット
  • IoT
  • 生産管理システム
  • 画像検査

などが選択肢になることがあります。

ただし、

「人手不足だから、とりあえず設備を入れる」

という考え方には注意が必要です。

設備投資の目的は設備を買うことではありません。

例えば、

  • 作業時間を減らしたい
  • 生産能力を高めたい
  • 不良率を下げたい
  • 段取り時間を短縮したい
  • 特定社員への依存を減らしたい

といった経営課題が先にあり、その解決手段として設備投資を検討します。

そのうえで、投資によってどれだけ時間や人員、生産能力、品質などが改善するのかを確認します。

関連記事:
「中小製造業の『設備投資』は何から考える? 補助金を探す前に整理したい投資判断の基本」


省力化だけでは、人手不足経営は完成しない

ここでもう一つ重要なのが、省力化した後に何が残るかです。

例えば設備投資によって作業時間を削減できても、利益が増えなければ、継続的な賃上げや人材投資につなげることは難しくなります。

人手不足への対応は、

省力化
↓
生産性向上
↓
付加価値・利益の確保
↓
賃上げ・人材投資
↓
採用・定着

までつながって初めて、持続的な経営改善になります。

そのためには、省力化だけでなく、

  • 歩留まり改善
  • 原価管理
  • 価格転嫁
  • 高付加価値製品へのシフト
  • 新製品・新市場の開拓

なども組み合わせて考える必要があります。

2026年版中小企業白書でも、労働投入量の最適化だけでなく、付加価値額を増やしていくことの重要性が示されています。

つまり、

「少ない人数で同じ仕事をする」だけではなく、「限られた人数でより大きな付加価値を生み出す」

ところまで考える必要があります。

人件費の上昇を販売価格へどう反映し、利益を確保するかについては、価格転嫁・原価管理の視点も重要です。

関連記事:
「中小製造業の価格転嫁はどう進める? まず「原価と利益」から考える価格交渉」


人手不足に、経営者は何から手をつけるか

人手不足を感じている企業が、すべて同時にDXや設備投資を始める必要はありません。

まずは、自社の仕事を整理するところから始められます。

① 現在の仕事・工程を棚卸しする

誰が、どの仕事に、どれくらいの時間を使っているのかを確認します。

② 人が足りない業務・工程を特定する

会社全体で「人が足りない」と考えるのではなく、どこで不足しているのかを具体化します。

③ 「やめる・減らす・変える」を考える

採用や設備投資を考える前に、そもそも必要のない仕事や簡素化できる仕事がないか確認します。

④ 標準化・省力化・DX・設備投資を検討する

残った仕事について、仕組みや設備によって負担を減らせないか考えます。

⑤ 人に残す仕事を決める

人だからこそ価値を生み出せる仕事へ、限られた人材を配置します。

⑥ 必要な人材を採用・育成する

ここまで整理したうえで、それでも必要な人材について採用・育成を進めます。

⑦ 効果を数字で確認する

作業時間、生産量、不良率、残業時間、付加価値、利益などを確認し、改善が経営成果につながっているかを見ます。

人手不足対策は、一度実施して終わりではありません。

仕事の内容や人員構成、設備、受注状況が変われば、必要な仕組みも変わります。

定期的に見直していくことが重要です。


人手不足を感じたときの経営チェック

□ どの業務・工程で人が不足しているか把握している
□ やめられる仕事・減らせる仕事を確認した
□ 特定の社員にしかできない仕事を把握している
□ 標準化できる仕事を確認した
□ システム化・AI活用が可能な業務を確認した
□ 設備で代替・省力化できる工程を検討した
□ 技能承継が必要な仕事を把握している
□ 人に残すべき仕事を整理している
□ 必要な人材について採用・育成を検討している
□ 省力化による効果を数字で確認している
□ 生産性向上を利益・賃上げ・人材投資につなげられている

すべてを一度に実行する必要はありません。

まずは、

「どこで、なぜ人が足りないのか」

を具体的にすることが出発点です。


経営NEXT TOKYO編集部の視点

人手不足は、「人が採れない」という一つの問題ではありません。

採用、定着、技能承継、省力化、DX、設備投資、価格、生産性、賃上げがつながった経営課題です。

だからこそ、

人が足りない
↓
採用する

だけで考えるのではなく、

必要な仕事を見極める
↓
仕事を減らす・変える
↓
省力化・DX・設備投資を進める
↓
人にしかできない仕事へ集中する
↓
付加価値と利益を高める
↓
賃上げ・採用・定着につなげる

という流れで考える必要があります。

採用は重要です。

しかし、これからの人手不足を考えると、「何人採るか」と同時に、「どのような仕事の仕組みなら、限られた人材で成長できるか」を考えることが、経営者にとってより重要になっていきます。


公式情報・出典

・中小企業庁「2026年版中小企業白書」

・東京都「令和6年度 東京の中小企業の現状―製造業編―」

・東京都中小企業振興公社「ものづくり中小企業技能人材定着支援」

・東京都「中小企業人材確保総合サポート事業」

※制度・支援内容は変更される場合があります。利用を検討する際は、各機関の最新の公式情報をご確認ください。

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